親が認知症になったら預金は引き出せる?代理出金・成年後見・家族信託の違いと相続への影響

2026年10月22日

「父が認知症と診断されてから、銀行で預金を下ろせなくなった」「介護施設の費用を親の口座から払いたいのに手続きが進まない」。こうしたご相談は年々増えています。この記事では、親が認知症になったときに預金を使う方法と、元気なうちにできる備え、相続税対策への影響を整理します。

この記事の結論

  • 銀行は、本人の判断能力が低下したと知ると、取引を制限することがある(いわゆる口座凍結)
  • 医療費や介護費など本人のための支払いに限り、親族による代理出金に応じる銀行もある
  • 本格的な財産管理には成年後見制度を使うが、生前贈与などの相続税対策は原則できなくなる
  • 元気なうちなら、任意後見・家族信託・遺言で備えられる

親が認知症になると預金はどうなる?

銀行は、預金者本人の判断能力が低下したことを知ると、本人の財産を守るために引き出しや解約などの取引を制限することがあります。家族であっても、本人の代わりに自由に引き出すことは原則できません。

預金を引き出す、定期預金を解約する、不動産を売るといった行為は、本人の意思で行う必要があります。判断能力が不十分な状態で行った契約は、無効になるおそれがあるためです。キャッシュカードと暗証番号を家族が預かって引き出しているケースもありますが、後で他の相続人から「使い込みではないか」と疑われる原因になります。

親族による代理出金(全国銀行協会の指針)

全国銀行協会は2021年2月、認知症などで判断能力が低下した預金者の取引について、銀行の対応の考え方を示しました。成年後見制度の利用を基本としつつ、医療費の支払いなど本人の利益に適合することが明らかな場合には、代理権のない親族による引き出しにも応じられるとしています。

  • 対象は、医療費・介護施設の費用など本人のための支払い
  • 銀行は診断書や面談などで本人の状態を確認する
  • 対応は銀行ごとに異なり、請求書や領収書の提出を求められることが多い

あくまで限られた支払いのための例外的な対応です。継続的な財産管理や、不動産の売却、定期預金の大きな解約などには対応できないことがあります。

成年後見制度を使う場合

判断能力がすでに低下している場合は、家庭裁判所に申し立てて成年後見人を選んでもらいます。目黒区・世田谷区・品川区・大田区など東京23区にお住まいの方は、東京家庭裁判所(霞が関)が申立先です。

主な流れ

  1. 医師の診断書を取得する
  2. 申立書と財産目録・収支予定表などを作成し、家庭裁判所に申し立てる
  3. 家庭裁判所が本人・候補者と面接し、必要に応じて医師の鑑定を行う
  4. 成年後見人が選ばれ、法務局に登記される

申立てから選任までは、おおむね1〜3か月が目安です。親族を候補者にすることはできますが、財産の状況などにより、弁護士・司法書士などの専門職が選ばれることもあります。

費用の目安

費用目安
申立ての実費収入印紙・郵便切手などで数千円程度。医師の鑑定が必要な場合は別途鑑定費用
専門職後見人の報酬(東京家庭裁判所のめやす)管理財産1,000万円以下:月額2万円
1,000万円超〜5,000万円以下:月額3万〜4万円
5,000万円超:月額5万〜6万円

成年後見は、原則として本人が亡くなるまで続きます。専門職が後見人になると、その間ずっと報酬がかかる点も考えておく必要があります。

成年後見では相続税対策ができなくなる

成年後見人の役目は、本人の財産を守ることです。そのため、次のような「本人の財産を減らす」行為は原則として認められません。

  • 子や孫への生前贈与
  • 相続税対策を目的とした不動産の購入やアパートの建築
  • 生命保険への新規加入による相続税の非課税枠の活用

目黒区・世田谷区のように自宅の評価額が高いご家庭では、親が認知症になった時点で相続税対策が止まってしまうことが大きな問題になります。認知症と相続税対策の関係は認知症になると相続税対策はストップする?でも解説しています。

元気なうちにできる3つの備え

方法内容向いているケース
任意後見契約判断能力が低下したときの後見人を、本人が元気なうちに選んで公正証書で契約しておく信頼できる家族に財産管理を任せたい
家族信託(民事信託)預金や不動産を家族に託し、決めた目的の範囲で管理・処分してもらう認知症になっても不動産の売却や賃貸経営を続けたい
遺言書亡くなった後の財産の分け方を決めておく相続人の中に認知症の方がいる、分け方で揉めそう

家族信託は、信託した財産について親の判断能力が低下した後も子が管理を続けられるため、不動産を多く持つご家庭の認知症対策として使われています。ただし、信託できるのは契約で決めた財産だけで、すべてを任せられるわけではありません。仕組みは家族信託(民事信託)サポート、後見制度は成年後見のページをご覧ください。

相続人の中に認知症の方がいる場合、遺産分割協議にはその方の成年後見人が参加する必要があります。後見人は原則として本人の法定相続分を確保するため、柔軟な分け方ができず、相続税の特例の使い方にも影響します。遺言書があれば、遺産分割協議をせずに手続きを進められます。

まとめ

親が認知症になると、預金の引き出しや相続税対策が大きく制限されます。本人のための支払いなら親族の代理出金に応じる銀行もありますが、本格的な財産管理には成年後見制度が必要です。任意後見・家族信託・遺言・生前贈与は、いずれも本人の判断能力があるうちにしかできません。気になり始めたら、早めにご家族で話し合い、専門家に相談しましょう。

参考:全国銀行協会「金融取引の代理等に関する考え方」(2021年2月)、東京家庭裁判所「成年後見人等の報酬額のめやす」

よくある質問

Q. 親が認知症になったら銀行口座は凍結されますか?

A. 銀行が判断能力の低下を知ると、引き出しや解約などの取引を制限することがあります。医療費など本人のための支払いに限り、親族による代理出金に応じる銀行もあります。

Q. 成年後見人に家族はなれますか?

A. 親族を候補者として申し立てることはできます。ただし最終的には家庭裁判所が選ぶため、財産の状況などにより弁護士・司法書士などの専門職が選ばれることもあります。

Q. 成年後見人がついた後に生前贈与はできますか?

A. 原則としてできません。成年後見人は本人の財産を守る立場のため、財産を減らす贈与や相続税対策は認められません。

Q. 家族信託と任意後見はどちらがよいですか?

A. 不動産の売却や賃貸経営を続けたい場合は家族信託、介護サービスや施設入所の契約なども含めて任せたい場合は任意後見が向いています。両方を組み合わせることもあります。

この記事の監修者

税理士 浅野 和治(相続サポート倶楽部 代表/浅野税務会計事務所)

1970年開業の浅野税務会計事務所を母体に、目黒区・世田谷区・品川区を中心とした相続税申告・相続手続き・生前対策をサポート。累計相談実績10,000件以上。税務調査に備えた書面添付制度の実施率99.9%。

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※本記事は2026年10月時点の法令・公表資料に基づいて作成しています。個別の判断は税理士にご相談ください。

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